大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1939号 判決 1981年4月27日

控訴人

新井義治

被控訴人

小田原市農業協同組合

右代表者理事

杉崎正

右訴訟代理人

真鍋博徳

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人と被控訴人との間に、昭和四一年一一月頃、当時控訴人が居住していた肩書住所地の約一二坪位の居宅に、共済金額一五〇万円の建物更生共済契約(旧契約)が締結されたこと、昭和五〇年一二月頃、改めて、この建物の増改築後の現況に即して満期共済金五〇〇万円、火災共済金一〇〇〇万円の建物更生共済契約(新契約)が締結されたことは何れも当事者間に争いがない。本訴は、控訴人が昭和五〇年一二月右旧契約を解約し、更に昭和五二年一二月右新契約も解約したので、これらの解約に伴う解約返戻金及び損害賠償金の支払請求であると解されるところ、被控訴人は、これら両契約には共に約款により仲裁契約が定められており、この契約に基因する本件紛争は、右仲裁契約に定める手続で解決されるべきであるから本訴は不適法であると主張するので、以下この点について判断する。

二<証拠>によれば、乙第一四号証は本件旧契約の際に、乙第一号証は本件新契約の際に、それぞれ被控訴組合から契約締結を証する建物更生契約証書と共に控訴人に交付された建物更生共済約款と同一内容のものであつて、全国の農業協同組合の扱う此の種の共済契約に共通の約款であるが、これらによれば、共済契約上の紛争の処理として、乙第一号証には第四六条、乙第一四号証には第四三条に、「共済契約について組合と共済契約者または被共済者(共済金を受取るべき者を含みます。)との間に紛争を生じた場合に、当事者間に協議がととのわないときは、当事者双方が書面をもつて選定した各一名ずつの者の決定にまかせるものとします。この場合に、もしその者の間で意見が一致しないときは、神奈川県共済連が設置する裁定委員会の裁定にまかせるものとします。」という趣旨の規定があり、これらの規定は、民訴法七八六条所定の仲裁契約を定めたものと解される。ところで、<証拠>によれば、本件各建物更生共済契約は、全国の農業協同組合が統一的に実施しているもので、建物等が火災又は自然災害等の事故によつて損害を生じたときに、これを填補することを目的とする一種の損害保険契約であつて、農業協同組合という非営利法人が実施するため「共済」という名称を付していることが認められるが、一般に保険契約の当事者は、特段の事情の認められない限り原則として普通契約約款による意思があるものと推定されるものであるところ(最高裁判所第三小法廷、昭和四二年一〇月二四日判決裁判集民事八八号七四一頁参照)、本件新契約を締結した際、控訴人は被控訴人の契約担当者であつた尾崎吉雄から建物更生共済証書(甲第一号証)とともに建物更生共済約款(乙第一号証と同様のもの)の交付を受け、同人から契約の要点について説明されたが、該証書には「建物更生共済約款にもとづき別記ご契約内容のとおり其済契約を締結しましたので、その証としてこの証書を発行いたします。」との記載があり、控訴人は異議なくこれを受領し、これによつて本件新契約が締結されたものと認められ、このことからして、控訴人は本件新契約が締結される約九年前の旧契約締結のときにも、被控訴人から前同様の態様での建物更生契約証書と約款(乙第一四号証と同様のもの)の交付を受けたものと推認されるから、従つて控訴人としては右いずれの場合も、紛争処理の方法について前記仲裁契約を定めている前記約款の趣旨を了知していたものと認められるのであつて、以上によれば、控訴人と被控訴人間で本件各共済契約締結の際、前記各約款に定める仲裁条項による旨の合意があつたものと解するのが相当である。そして、弁論の全趣旨によれば、控訴人の本訴請求が、前示各約款に定める「共済契約について組合と共済契約者との間に」生じた紛争にあたることは明らかであるから、控訴人としてはその解決のために先ず前示各仲裁契約による手続をとらなければならなかつたものというべきである。

控訴人は、当審において、本件各仲裁契約の履行を怠つたのは被控訴人であるから、被控訴人は本件仲裁契約上の権利を放棄し、訴訟手続によることを承認した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、却つて<証拠>によれば、被控訴人としては、昭和五三年二月一〇日控訴人に対して本件仲裁手続による紛争の処理方法について説明を試みたことが認められるので、控訴人の右主張は採用できない。また、控訴人は、右約款の仲裁条項は、紛争解決の一つの方法を選択的に示したに止まり、契約者たる控訴人にこの手続によることを義務づけたものではない旨主張するけれども、右条項を右主張のように解すべき根拠を裏付けるに足りる証拠はない。そしてかかる仲裁条項による旨の合意がなされたものと認むべき以上、裁判を受ける権利を奪われたとする控訴人の主張は採用に由ない。

そうすると、被控訴人の本案前の抗弁は理由があり、本訴は不適法なものとして却下を免れないから、これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて、訴訟費用の負担につき民訴法九五条八九条を適用のうえ主文のとおり判決する。

(田中永司 安部剛 岩井康倶)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例